
今年の電動車両の行方を占う意味で、
昨秋のパリモーターショーの記事が参考になります。
9月29日にパリモーターショーの会場では、独ダイムラーが2025年までに10車種のEVを市場に投入することを発表している。EV向けの新ブランドは「EQ」とするとのこと。25年までの新車販売台数のうち、15~25%をEVにすると目標値を掲げた。その布石として、19年までに最初のEQブランド量産EVとしてSUV(多目的スポーツ車)を市場に投入すると言う。価格帯は4万~5万ユーロを目標にしているようだ。

➡︎◻︎自動運転ダイムラー
同じパリモーターショーで、仏ルノーは2012年に発売した小型EV「ZOE」を改良し、1回の満充電で400km走行できるようにしたEVを年内にも発売することを表明している。LG化学製のリチウムイオン電池(LIB)の改良開発版をベースにした、エネルギー量が41kWh(ZOEでは22kWh)のLIBを搭載するとのこと。

そして先日、世界最大級の自動車販売台数を誇る独フォルクスワーゲン(VW)がEVへの本格的参入の詳細を発表した(日本経済新聞、11月19日付)。世界各国での環境規制が強化されつつある中、1年2カ月前の排ガス不正問題発覚をきっかけに、電動車両(xEV)へ大きくカジを切る決断をした。
同社の方針によると、2025年の新車販売のうち最大25%をEVにするとのことで、ダイムラーと同様、何ともチャレンジングな目標を明らかにした。そのため、EVと電池システムの生産体制の構築を図り、ドイツ国内で9千人の雇用確保を図ると言う。代わりに既存生産体制を大幅に見直すことから、20年までに全世界で3万人(従業員の5%規模)、ドイツ国内では2万3千人(同8%規模)の大規模なリストラを断行するとのことだ。

➡︎◻︎VW背水の電動シフト 日経
これらの事実を鑑みれば、自動車産業界のパラダイムシフトに向けた大きな転換点を迎えたといえるだろう。生産規模で世界トップを狙うトヨタとVWの2大巨頭がEVへの本格参入を決め、そして世界ブランドのトップを走るダイムラーがスタート位置に着いた。さらにダイムラーのEV開発強化の表明以前に、ブランド力ではダイムラーに負けない独BMWも2013年からEV事業に参入している。このようなEVの流れは、自動車業界内はもちろん、電池業界、そして部材業界に大きな影響を及ぼすことになる。
群雄割拠となるEVワールド
米カリフォルニア州が定めるゼロエミッション自動車(ZEV)規制では、現在もZEV規制対象メーカーである米ゼネラルモーターズ(GM)、米フォード、欧米フィアットクライスラー・オートモービルズ(FCA)、トヨタ、ホンダ、日産自動車の6社に加えて、2018年にはVW、BMW、ダイムラー、現代/起亜自動車、マツダが追加で対象となる。
そのマツダだが11月初旬、2019年までに北米でEVを発売し、21年以降にはプラグインハイブリッド(PHV)を併せて北米に投入すると発表した。ハイブリッド車(HV)をはじめとするエコカーでは、トヨタとの技術提携のもとで既に「アクセラHV」を市販しているが、EVでもトヨタとの連携を軸に開発を加速することになる。

➡︎◻︎マツダEV参入記事
一方、富士重工業は当初18年からのZEV対象企業となっていたが、他メーカーに比べて世界販売台数が小規模と言う理由で、15年時点でのロビー活動の結果、対象メーカーから外れた。結果としては、25年時点での対象企業となることで7年の猶予ができたことになる。しかし、その富士重工も、21年にはEVを市場に投入することをターゲットとして既に準備を始めている。

➡︎◻︎スバルピュアEV参入記事
フォードにおいては、向こう4500億円を投じてxEV開発を加速、その中には当然EVも大きな柱と設定している。
このように眺めると5年後の2021年段階のEV市場には、既にEV事業を09年から開始している三菱自動車、10年から事業を開始しEVの累積台数では20万台を超えている日産、12年に量産EVを発売したルノー、13年からEV事業に参入したBMW、FCAといった先行している面々に、マツダ、トヨタ、富士重工、VW、ダイムラーなどが一気に加わる。中でも、日産は三菱自動車とのxEV協業を今後加速する中、一気にEV製品を市場に投入してくることになるだろう。
そういう中で、国内大手では唯一新規EVに関する発信をしていないホンダだが、20年段階でEVを準備していなければ、ZEV対応と言う意味ではPHVと燃料電池車(FCV)で勝負するしかない。しかし、価格もコストも高く、インフラ整備にも時間が多くかかるFCVが、米国市場で20年に拡散する可能性はまずない。とすると、PHVで重点的にZEV対応を迫られることになり、十分なシナリオとは言えないだろう。

写真は3モーター搭載のNSX(但しただのHV)
トヨタと同様にEVには抵抗感を持っていたホンダだが、現在の同業他社の動向を見るとホンダもEV戦略を打ち出さざるを得ない状況を迎えている。ホンダのEV事業化について、早期に発信してほしいものである。

➡︎◻︎ホンダがEVを作ろうと思えば作れる事例
韓国の現代自動車グループも同じようにEV戦略を描くべきであろう。現時点での同社の最大関心事はPHVのようだが、これもホンダと同様、EVを避けての強力なシナリオは見え辛い。いずれ近いうちに、現代自動車グループもEV事業への本格参入を発信するのではないかと考える。
テスラにとっては大きな試練が待ち受ける
このようにEV競争が本格化する中で、先行してきた日産、三菱、米テスラ・モーターズにとっては試練が待ち構える。新規参入大手自動車メーカーと中堅自動車メーカーを迎え打つ上記3社の戦略はどうなるか。
日産と三菱自動車は、三菱自動車の燃費不正問題をきっかけに、xEVの協業事業を強化する。電動化の開発には巨額な資金を必要とする中、三菱自動車にとっては生き残りをかける追い風の共同事業となる。
日産にしてみれば、出遅れていたPHVで、三菱自動車が先行してきたPHVの「アウトランダー」の技術と製品戦略が大きな支えとなる。2020年時点のZEV対応で、両社は複数のEVとPHVの武器によって迎え撃つことが可能となる。

➡︎◻︎アウトランダーPHEVのパワートレインの凄さがわかる記事
さて、テスラの場合はどうなるだろうか。これまでは競合企業や競合車種が限られていたが、日米欧の巨大企業がEV製品をそろって市場に出すことで、同社にとっては大きな脅威になることは必至だ。前回の11月10日のコラムの最後に、そのことを疑問として締めくくったので、そこを少し掘り下げてみたい。
大手および中堅自動車メーカーは、ZEV規制を満たすために、2018年時点ではEV、PHV、FCVの売り上げが販売台数の4.5%以上を占めなくてはならず、これが25年時点では22%以上となる。さもなければ、同業他社からクレジットを購入しなければならない。規制の台数が急激に増えることになるため、もし大幅にクレジットを購入することになれば経営へ多大な悪影響を及ぼすこととなる。
また、生産しただけで規制をクリアできるわけではなく、消費者が購入して初めて規制値に対してカウントされる。このため、自動車各社が必死になって製品戦略を構築するのは当然だ。各種自動車の量産を生業としてきた自動車メーカーが本格的にEVの量産に移行した場合、一本足打法としてEVを市販するテスラにとっては試練になること間違いない。というのも、既存メーカーは、内燃機関自動車やHVで培った技術やノウハウ、加えて部材調達において、テスラよりもポテンシャルはかなり高いと思われるからだ。
「モデルS」で社会にインパクトを与えたテスラだが、新型「モデル3」への期待が高まり、先行予約では35万台超になっているという。ただし、予約者の100%が購入するわけではない。そしてそこに、大手および中堅の自動車メーカーがテスラ社の牙城に侵攻することになれば、消費者の志向が変わり、テスラから移り変わることは十分に考えられる。

テスラが手掛ける高級EV路線を、日米欧の自動車メーカーができないわけはない。テスラのEV事業に割って入ることは困難なことではなく、日米欧の大手自動車メーカーならばブランド力と技術力を生かして対抗できるシナリオは作れる。現に、BMWのEVである「i3」はデザイン性とブランド力で求心力があるし、PHVである「i8」は高級車そのものである。BMWが「i8」をベースに、またはその延長上にEV化を進めることは可能だ。

➡︎◻︎BMW 既存ラインEV化へ
一方、テスラが推進しつつある低価格路線のEVは、既存自動車メーカーにとってはより現実的な解であり、多くの車種が商品化されることになるだろう。このように時間軸で考えてみれば、テスラのEV事業には大きな壁が立ちはだかる。その壁を、どうやって同社が取り崩していくかの戦略が問われることになるであろう。
それは、同社が大手自動車メーカーでは手掛けられないようなどのような部分に注力するのか、そして競合EVがひしめく中で顧客に選んでもらえる商品戦略をどのように打ち出してくるのかに掛かっている。非常に注目されるが、いずれにしろ決して容易なストーリーにはならないと筆者には映る。
➡︎◻︎テスラの中期計画マスタープランパート2
xEVの拡大に向けた部材業界の賭け

➡︎◻︎日系電動車両用 素材メーカー
一方で、EV量産のカギを握る日系部材メーカーの、投資戦略を図に示す。まず注目されるのが住友化学だ。同社は、パナソニックのLIBに供給するセパレーターを手掛ける事業に対して200億円を投資し、韓国に増産体制を整えると言う。これにはパナソニックが、受注が好調なテスラに対してLIBを供給しているという背景がある。
ただし、新型モデルSが予定通りに受注した場合はそうであるが、そうならないことへのリスクヘッジは大丈夫であろうか。住友化学がこう判断した後に、日米欧大手自動車メーカーがEV参入を発表したので、それらの自動車メーカーにつながる電池メーカーへの供給というシナリオも、考えておくべきだろう。
東レも旭化成もセパレーターへの投資を積極的に進める。セパレーターは日系企業が圧倒的な強みをもつ部材であるがゆえの投資拡大である。
部材企業の積極投資
2009年以前に、三菱自動車や日産がEV事業を開始すると表明、EVの市場拡大に期待できるとの展望が社会を駆け巡った際に、それに呼応した電池業界や部材業界は一斉にビジネスチャンスとして国内外へ大規模な投資を図った。電池業界ではジーエスユアサ・コーポレーション(GSY)が、部材業界では三菱化学がその代表例であった。
しかし、EVの販売は全く計画通りに進まなかった。販売台数が伸びなければ投資回収はままならない。特に、三菱化学の誤算と失敗はかなり大きかったようだ。
部材業界も、自動車業界や電池業界の見解や展望に耳を傾けるのは大切であるが、鵜呑みすると大変なことになるという証しであった。自らの市場展望と分析、客観的な判断、そしてリスクヘッジした事業戦略をしたたかに描かないと、そこには大きな落とし穴があるかもしれない。
これは電動車両業界にとっては大変なことになりそうな2017年です。
消費者サイドは楽しんで過ごしましょう。


➡︎◻︎注目のコンセプトカー11選
作る方は大変でしょうけどね。
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