
日経テクノロジーでの三菱開発本部設計マスター吉田氏の
インタビューを長文ですが転載します。
世界の自動車メーカーが、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の開発に本腰を入れ始めた。EV走行距離(満充電時にEVとして走行できる距離)を伸ばし、価格を普及価格帯に引き下げる目標を掲げる企業も増えてきた。今後、EVやPHEVに関する部品や材料の開発ニーズが増えてくる可能性がある。「技術者塾」において「設計マスターが語るEVとPHEVの開発のポイント」の講座で講師を務める三菱自動車工業 開発本部 設計マスター(EVコンポ担当)の吉田裕明氏に、EVとPHEVの動向や開発の要所などを聞いた。(聞き手は近岡 裕)
──自動車の電動化の動きをどう見ますか。
吉田氏:ここに来て潮目が変わった感があります。その引き金を引いたのは、やはり、ドイツVolkswagen(VW)社の排出ガス不正問題でしょう。この問題でディーゼルエンジン車に対する顧客の信頼が低下してしまいました。その結果、VW社はこれまでとは違ってディーゼルエンジン車を前面に押し出しにくくなり、「EVシフト」を打ち出してきました。2025年までに30車種以上のPHEVを含めたEVを投入し、同社グループにおいてEVの年間販売台数比率を最大25%に引き上げると発表しています。
➡︎◻︎VW2020 電動化計画

これまで次世代のエコカーとして燃料電池車(FCV)を押し出してきたトヨタ自動車も、EVの開発や戦略を担当する「EV事業企画室」を立ち上げました。グループ企業のキーパーソンが結集し、今後は量産型EVの開発に力を入れると見られます。マツダもEVの市場投入を発表し、富士重工業はEV市場に再参入して海外向けに投入すると宣言しました。

➡︎◻︎トヨタがEV参入せざるを得ない理由
欧州市場はVW社の問題が大きな衝撃を与えましたが、自動車メーカーにとってEVとPHEVの開発をMUST(必須)の状況にしているのは、米国カリフォルニア州の環境規制「ZEV(Zero Emission Vehicle=排出ガスを出さない車両)規制」です。「2018年モデル」からハイブリッド車(HEV)がZEVの対象から外れることになりました。従って、北米市場で販売する自動車メーカーは、HEVから大きく舵を切らなければならないのです。
中国も電動車の方向に大きく舵を切りつつあります。電池メーカーの育成も狙いながら、国が補助金をEVに出しています。北京や上海、深圳といった大都市には、数十台から百台規模のクルマを充電できる充電スタンドを造るなど、国の政策として充電インフラを整備しています。
PHEVは分類としてはHEVですが、何十km分かのEV走行距離を持っており、最初にEV走行を行った後でHEVとして走行します。そのため、PHEVはある程度EVとして認められて、補助金やZEVのクレジット(EVに等価な係数)に対して優位性が与えられています。こうした背景から世界でEVやPHEVへの大きな流れが来ているのです。
「ダイレクトな加速感」
──EVやPHEVが環境負荷の軽減以外に、クルマとして顧客に与える利点は何ですか。
吉田氏:EVやPHEVはモーター駆動する点に特徴があります。トランスミッションと組み合わせて変速して走るガソリンエンジン車とは異なり、運転すると「ダイレクトな加速感」が得られます。この評判がいい。乗ってみないと分からないのですが、ハンドルを握って試乗した人はほぼ全員と言ってよいほど「いいね」と言ってくれます。実際、三菱自動車のスポーツユーティリティービークル(SUV)「アウトランダー」にはエンジン車とPHEV「アウトランダーPHEV」がありますが、PHEVの方が売れています。
日産自動車がシリーズHEV「ノート(e-POWER搭載車)」を発売しました。HEVに分類されていますが、エンジンで発電し、その電力をモーターに入れて走ります。そのため、EVやPHEVの加速感はノートでも得られます。ノートは国内の月間車名別販売ランキングでトップを取ったこともあり、ノートe-POWER搭載車に試乗する人も増えることでしょう。こうした機会が増えることで、電動車両の走りの特徴が徐々に顧客に伝わっていくと考えています。

➡︎◻︎ノートe-POWER
──EVやPHEVとエンジン車とでは設計が異なると思います。どう変わるのでしょうか。
吉田氏:エンジン車と比べた場合のEVやPHEVの最大の違いはバッテリーを搭載していることです。バッテリーはEVやPHEVの車体を構成する部品の中で最も大きく重いものでもあります。バッテリーを搭載する際には、衝突や水没のリスク、冷却性能の関係など、いろいろな機能的要因を踏まえてバッテリーを設置する箇所と、バッテリーパック(以下、パック)の構造を決める必要があります。
EV走行時はモーターで駆動するため、エンジン車とは違って振動や騒音がかなり小さい。現在量産されているEVは、コストや生産などの都合からエンジン車向けのボディーを採用しています。しかし、EVの特徴をもっと生かしたEV専用ボディーを設計しようと考えると、ボディーの造り方はもっと変わってきます。例えば、ドイツBMW社はEV「i3」に炭素繊維強化樹脂(CFRP)製ボディーを採用しました。振動や騒音が少ないモーター駆動のクルマだからこそ成立するボディーだと思います。異なる材料を複合的に組み合わせる「マルチマテリアル」設計も、EVやPHEVでは加速する可能性があります。
アイドリング振動がないので、EVではボディーの剛性をエンジン車ほどチューニングする必要がありません。特にフロント周りがそうです。EVではパワートレーンを起因としたハンドルの取り付け周りやフロアの振動がありません。これが、ボディーを樹脂化しやすい要因でしょう。

➡︎◻︎BMW虎ノ門ショールーム
現在はエンジン車の延長線上で造ったボディーのEVが多いのですが、今後はi3やTesla Motors社のEVのように、思い切ったEV専用ボディーを設計する企業が増えてくるかもしれません。自動車が誕生した頃は馬のいない馬車の形でした。それが今のエンジン車の形に画期的に変わりました。今後はEVに適した形にきっと変わります。EV時代にはボディー革命が起きるかもしれません。
EV距離を「伸ばして欲しい」
──EVやPHEVの売れ行きは今後どうなると見ていますか。
吉田氏:CセグメントやDセグメントといった大きなクルマがPHEV、Bセグメント以下がEVに向いていると思います。これらのセグメントで内燃機関車から置き換わっていくイメージを持っています。HEVも含めて2030年で電動車比率が40%以上になるという予測もあります。経済産業省は、2030年の時点で新車販売に占めるEVとPHEVの販売目標を20~30%とする「EV・PHVロードマップ」をまとめています。

➡︎◻︎経産省ロードマップ
現在、アウトランダーPHEVは月に4000~5000台の水準で売れており、PHEV分野の世界販売台数で世界第1位です。補助金などの優遇策もあって、特に欧州市場での売れ行きが好調です。PHEVとして市場に認められ、売れたクルマだと考えています。
➡︎◻︎アウトランダーPHEV 世界販売台数10万台達成
EVやPHEVはこれまで市場が存在しませんでした。ところが、三菱自動車がアウトランダーPHEVを欧州市場で販売すると、補助金が出るようになりました。補助金狙いで開発したのではなく、補助金が後から追いかけてきたという感じです。欧州ではエコカーとしてクリーンディーゼルエンジン車が売れてきましたが、アウトランダーPHEVによってPHEVも受け入れてもらえることを証明できたのではないかと考えています。
──アウトランダーPHEVが売れている理由は?
吉田氏:SUVであることと4輪駆動車の走り、そして先に述べた、エンジン車にはないダイレクトな加速感が評価されているのだと思います。アウトランダーPHEVは低・中速ではシリーズ走行しますが、高速になるとパラレル走行モードに入ります。高速領域はエンジンの効率の良い領域のため、エンジンで直接走行し、加速を得るためにモーターを補助的に使って燃費を改善します。
EV走行距離は約60km。平日と週末でクルマの走行距離を調査したところ、全体の8割が50km以下の走行距離であることが分かりました。そこで、少し余裕を見て60kmのEV走行距離があれば、日頃の走行はほぼEV走行でまかなえると考えました。
実は、顧客は潜在的にEV走行を求めていると感じています。それは、「もっとEV走行距離を伸ばしてほしい」という要望を顧客からいただくからです。EVが売れない、PHEVが売れないということはないと思います。大衆車のような売れ方はしないでしょうが、大衆車と高級車の間の位置付けになるのではないでしょうか。モーター走行によるダイレクトな加速感という付加価値をうまく引き出せば、高級車の位置付けに持って行くことも可能だと思います。

➡︎◻︎次期アウトランダーPHEV EV航続距離120キロ?
こういうの読むと
色々推測しちゃいますよねー。
次期アウトランダーPHEVは炭素繊維採用か?
本当にEV航続距離120キロいっちゃうか?
など、、、
夢を抱く2017年 正月です。
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