
WEBモーターファン誌に
「スタートアップにPHEVは作れない。ではエンジンがないBEVならIT企業が作れるのか?」
という記事があって、その中で内燃機関と電動技術の融合で
従来のクルマメーカーに一日の長があるという例として、
三菱開発陣のインタビューが紹介されてましたので紹介します。
技術開発は継続と蓄積こそ力であり、そこに一日の長がある。そう思わせる例をひとつ紹介する。

向かって右が鈴木忠志・商品戦略本部商品評価部主任(プロダクト評価担当)、左が金子真樹・プロジェクトマネージメント本部プロジェクト推進室第2プロジェクト推進室・主任。感染防止対策のためインタビュールームのデスクにはこのようにアクリル製パーティションが置かれていたのでそのまま撮影。
エクリプスクロスPHEVの仕上げの方向性について、鈴木忠志・商品戦略本部商品評価部主任(プロダクト評価担当)と金子真樹・プロジェクトマネージメント本部プロジェクト推進室第2プロジェクト推進室・主任に話を伺った。以下はそのダイジェストである。おふたりの発言はMMCとしてまとめた。
牧野:満載2トンの重量を感じさせない仕上がりです。前軸荷重だけで1トンあるのにEPSの感触もなかなか気に入りました。
MMC:はい。前軸荷重1040kgですが、EPASは路面フィードバックを感じられるよう、意識して手応えを上げています。しかし過敏過ぎないよう配慮しました。
牧野:車両重量に対して気をつけたことは?
MMC:ダンパーのチューニングです。アウトランダーPHEVと同じ仕様のダンパーではダメで、もちろんガソリンエンジン仕様エクリプスクロスのダンパーでもダメです。アウトランダーとの比較では、エクルプスクロスのほうがボディ剛性が高いため、とくにフロントは同じ仕様のダンパーだと前輪荷重になったとき曲がり過ぎてしまうのです。

牧野:ホイールベースが同じで前後重量配分も似ているのに、不思議ですね。
MMC:こうも違うものかと、我われも不思議でした。ダンパーを必要以上に硬くしないで、しかし余分な動きは抑える。そして後軸モーターが後ろから押してくれるときの車体の挙動も自然に、というチューニングです。
牧野:駆動系の制御もアウトランダーとは違うのですか?
MMC:ほぼ同じですが、細部は微調整しています。
牧野:各モードを試してみたのですが、曲がりくねった細い道や、ブラインドスポットの多い住宅街では「エコ」が重宝します。アクセル抜き側で空走せず、低速側の速度管理がやりやすいです。
MMC :「エコ」ではモーターの出力を20%程度落としています。エアコンの作動も緩くしています。電力セーブのモードです。
牧野:「ターマック」モードにするとつねにエンジンが作動しています。
MMC:強い加速をしようとすると「ノーマル」モードでもエンジンをかけに行くのですが、エンジン始動までの時間がもったいないから「ターマック」モードでは最初からエンジンをかけています。ドライバーが求める駆動力にすぐ反応させるためです。かなり速くストッロルを開け、それに合わせて回生ブレーキも強くしています。加速側と減速側との対称性に気を遣いました。
牧野:通常、FFベースのオンデマンド4WDは後軸の駆動力をあまり使わない制御がほとんどですが、エクリプスクロスは積極的に使ってきます。そこはアウトランダーと同じですね。
MMC:せっかくの4WDですから「おまけ」ではダメです。4WDの制御はリヤが強いほうが走りやすいと我われは考えています。そのほうが、より4WDの理想に近くなる、と。これはMMCとしての経験の積み重ねの結果です。

澤瀬 薫・EV・パワートレイン技術開発本部チーフテクノロジーエンジニア。S-AWCやAYCの考案者であり、筆者が取材で会ったドイツやフランスのエンジニア諸氏もドクター・サワセを知っていた。三菱自動車の次世代PHEVあるいはBEVは、3モーターで駆動力制御するスーパーハンドリングマシンになるのでは、と筆者は思う。
4WDの話題になったところで、「Motor Fan Illustrated」誌の取材で何度もお世話になっている澤瀬 薫・EVパワートレイン技術開発本部チーフテクノロジーエンジニアに声をかけた。
牧野:とてもいい仕上がりなので楽しい試乗でした。しかし、開発段階ではどうだったのかな、と。澤瀬さんは何回ダメ出しをしたのかなぁ(笑)。
澤瀬:ほとんどセッティングが出来上がってから試乗したのですよ。十勝の圧雪ハンドリング路で初めて乗りました。今回、私は何もしていないんです。私が言うもの何ですが、乗った瞬間に気持ちよかった。スッとハンドルを切った瞬間に、クルマが体にフィットする感触が伝わったのです。雪の上で、最初のカーブをアクセルを踏まずに定常で20km/hくらいでスーッとゆっくりハンドル切ったとき、ボディが軽々動いた。そこから下り坂を走って安心して、続いて直線路、その先で登り道に入るころには、すでに遊び始めていました(笑)。
牧野:ほお、澤瀬さんがそこまで言うのは珍しいですね。
澤瀬:アクセル操作、ハンドル操作に対してクルマ側の遅れが少ないから直感的に運転できるのですよ。プラットフォームも違いますが、エクリプスクロスはアウトランダーより重心高が10mmほど低いのです。それと、全長が少し短いからヨー慣性モーメントもやや小さい。ボディ剛性が高い。こうした要素はプラスに働いています。何より現場がよく作ってくれました。
以上がエクリプスクロスPHEVを試乗した印象と、筆者から三菱自動車開発陣への質疑と、その回答である。いまのところPHEVは、自動車メーカーでなければ作れない。ICE(内燃エンジン)と電動モーターの両方を使った駆動力制御という領域は、いかにIT企業とはいえ、おいそれと手を出せる分野ではない。三菱自動車は2012年12月にアウトランダーPHEVを発売し、その後も改良と商品開発を続けている。
4WD機構については、第2次大戦中の軍用4輪駆動車(のちのジープ)を手がけた米・ウィリス・オーバーランド・モータースとの提携により1953年に日本国内でのノックダウン生産を開始したときからのノウハウ蓄積がある。1956年からは完全国産に切り替えてミツビシ・ジープとなり、1982年の初代パジェロへと技術がつながる。

そして、4輪で地面に駆動力を伝えるメリットを悪路走破だけでなく舗装路でも発揮させる研究がたどり着いたのは4輪の駆動力統合制御S-AWC(やAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)であり、トルクベクタリング=左右輪間のトルク移送だった。いま、三菱自動車のPHEVはICEと前後独立モーターを使うS-AWCを中心に、これまでICE搭載車で培ってきた技術を電動車に展開している。
➡□元記事に
記事からの新しい知見
①現行アウトランダーPHEVとエクリプスクロスPHEVでは
エクリプスクロスPHEVの方がボディ剛性が高いのでよく曲がる。
(システム制御しないと曲がり過ぎてしまう程)
更にエクリプスクロスPHEVの方が重心が10mm低い、そして全長が短いので
ヨー惰性モーメントが小さい、これに上記のボディ剛性の高さを加えるので
ハンドリングが優れているという。
②エクリプスクロスPHEVは、筆者牧野氏によると街中では「エコモード」が走りやすい。
又、ターマックモードでは「常にエンジンがかかっている」状態だという。
③筆者の予想では、三菱の次期電動車両は、3モーターで制御する
「スーパーハンドリングマシン」になるという。
三菱のPHEVはジープのノックダウン生産、パジェロ、ランエボと様々な
4輪駆動車の経験から生まれているので、IT企業には到底作れないノウハウが詰まっているとの事。
もしかして、多くの企業が参入してくるBEV(ピュアEV)より、
PHEVの方が三菱が世界市場で生き残っていく活路なのかもしれませんね。

➡︎□一方のピュアEV(BEV)は、ファブレス企業も参入?テスラがファブレス企業にならなかった理由

➡︎□エクリプスクロスPHEVの対アウトランダーPHEVの長所・短所がわかる試乗記

➡︎□エクリプスクロスPHEV対「RAV4PHV」について三菱担当者談

➡︎□エクリプスクロスPHEV対レクサスHVの走りについて
「スタートアップにPHEVは作れない。ではエンジンがないBEVならIT企業が作れるのか?」
という記事があって、その中で内燃機関と電動技術の融合で
従来のクルマメーカーに一日の長があるという例として、
三菱開発陣のインタビューが紹介されてましたので紹介します。
技術開発は継続と蓄積こそ力であり、そこに一日の長がある。そう思わせる例をひとつ紹介する。

向かって右が鈴木忠志・商品戦略本部商品評価部主任(プロダクト評価担当)、左が金子真樹・プロジェクトマネージメント本部プロジェクト推進室第2プロジェクト推進室・主任。感染防止対策のためインタビュールームのデスクにはこのようにアクリル製パーティションが置かれていたのでそのまま撮影。
エクリプスクロスPHEVの仕上げの方向性について、鈴木忠志・商品戦略本部商品評価部主任(プロダクト評価担当)と金子真樹・プロジェクトマネージメント本部プロジェクト推進室第2プロジェクト推進室・主任に話を伺った。以下はそのダイジェストである。おふたりの発言はMMCとしてまとめた。
牧野:満載2トンの重量を感じさせない仕上がりです。前軸荷重だけで1トンあるのにEPSの感触もなかなか気に入りました。
MMC:はい。前軸荷重1040kgですが、EPASは路面フィードバックを感じられるよう、意識して手応えを上げています。しかし過敏過ぎないよう配慮しました。
牧野:車両重量に対して気をつけたことは?
MMC:ダンパーのチューニングです。アウトランダーPHEVと同じ仕様のダンパーではダメで、もちろんガソリンエンジン仕様エクリプスクロスのダンパーでもダメです。アウトランダーとの比較では、エクルプスクロスのほうがボディ剛性が高いため、とくにフロントは同じ仕様のダンパーだと前輪荷重になったとき曲がり過ぎてしまうのです。

牧野:ホイールベースが同じで前後重量配分も似ているのに、不思議ですね。
MMC:こうも違うものかと、我われも不思議でした。ダンパーを必要以上に硬くしないで、しかし余分な動きは抑える。そして後軸モーターが後ろから押してくれるときの車体の挙動も自然に、というチューニングです。
牧野:駆動系の制御もアウトランダーとは違うのですか?
MMC:ほぼ同じですが、細部は微調整しています。
牧野:各モードを試してみたのですが、曲がりくねった細い道や、ブラインドスポットの多い住宅街では「エコ」が重宝します。アクセル抜き側で空走せず、低速側の速度管理がやりやすいです。
MMC :「エコ」ではモーターの出力を20%程度落としています。エアコンの作動も緩くしています。電力セーブのモードです。
牧野:「ターマック」モードにするとつねにエンジンが作動しています。
MMC:強い加速をしようとすると「ノーマル」モードでもエンジンをかけに行くのですが、エンジン始動までの時間がもったいないから「ターマック」モードでは最初からエンジンをかけています。ドライバーが求める駆動力にすぐ反応させるためです。かなり速くストッロルを開け、それに合わせて回生ブレーキも強くしています。加速側と減速側との対称性に気を遣いました。
牧野:通常、FFベースのオンデマンド4WDは後軸の駆動力をあまり使わない制御がほとんどですが、エクリプスクロスは積極的に使ってきます。そこはアウトランダーと同じですね。
MMC:せっかくの4WDですから「おまけ」ではダメです。4WDの制御はリヤが強いほうが走りやすいと我われは考えています。そのほうが、より4WDの理想に近くなる、と。これはMMCとしての経験の積み重ねの結果です。

澤瀬 薫・EV・パワートレイン技術開発本部チーフテクノロジーエンジニア。S-AWCやAYCの考案者であり、筆者が取材で会ったドイツやフランスのエンジニア諸氏もドクター・サワセを知っていた。三菱自動車の次世代PHEVあるいはBEVは、3モーターで駆動力制御するスーパーハンドリングマシンになるのでは、と筆者は思う。
4WDの話題になったところで、「Motor Fan Illustrated」誌の取材で何度もお世話になっている澤瀬 薫・EVパワートレイン技術開発本部チーフテクノロジーエンジニアに声をかけた。
牧野:とてもいい仕上がりなので楽しい試乗でした。しかし、開発段階ではどうだったのかな、と。澤瀬さんは何回ダメ出しをしたのかなぁ(笑)。
澤瀬:ほとんどセッティングが出来上がってから試乗したのですよ。十勝の圧雪ハンドリング路で初めて乗りました。今回、私は何もしていないんです。私が言うもの何ですが、乗った瞬間に気持ちよかった。スッとハンドルを切った瞬間に、クルマが体にフィットする感触が伝わったのです。雪の上で、最初のカーブをアクセルを踏まずに定常で20km/hくらいでスーッとゆっくりハンドル切ったとき、ボディが軽々動いた。そこから下り坂を走って安心して、続いて直線路、その先で登り道に入るころには、すでに遊び始めていました(笑)。
牧野:ほお、澤瀬さんがそこまで言うのは珍しいですね。
澤瀬:アクセル操作、ハンドル操作に対してクルマ側の遅れが少ないから直感的に運転できるのですよ。プラットフォームも違いますが、エクリプスクロスはアウトランダーより重心高が10mmほど低いのです。それと、全長が少し短いからヨー慣性モーメントもやや小さい。ボディ剛性が高い。こうした要素はプラスに働いています。何より現場がよく作ってくれました。
以上がエクリプスクロスPHEVを試乗した印象と、筆者から三菱自動車開発陣への質疑と、その回答である。いまのところPHEVは、自動車メーカーでなければ作れない。ICE(内燃エンジン)と電動モーターの両方を使った駆動力制御という領域は、いかにIT企業とはいえ、おいそれと手を出せる分野ではない。三菱自動車は2012年12月にアウトランダーPHEVを発売し、その後も改良と商品開発を続けている。
4WD機構については、第2次大戦中の軍用4輪駆動車(のちのジープ)を手がけた米・ウィリス・オーバーランド・モータースとの提携により1953年に日本国内でのノックダウン生産を開始したときからのノウハウ蓄積がある。1956年からは完全国産に切り替えてミツビシ・ジープとなり、1982年の初代パジェロへと技術がつながる。

そして、4輪で地面に駆動力を伝えるメリットを悪路走破だけでなく舗装路でも発揮させる研究がたどり着いたのは4輪の駆動力統合制御S-AWC(やAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)であり、トルクベクタリング=左右輪間のトルク移送だった。いま、三菱自動車のPHEVはICEと前後独立モーターを使うS-AWCを中心に、これまでICE搭載車で培ってきた技術を電動車に展開している。
➡□元記事に
記事からの新しい知見
①現行アウトランダーPHEVとエクリプスクロスPHEVでは
エクリプスクロスPHEVの方がボディ剛性が高いのでよく曲がる。
(システム制御しないと曲がり過ぎてしまう程)
更にエクリプスクロスPHEVの方が重心が10mm低い、そして全長が短いので
ヨー惰性モーメントが小さい、これに上記のボディ剛性の高さを加えるので
ハンドリングが優れているという。
②エクリプスクロスPHEVは、筆者牧野氏によると街中では「エコモード」が走りやすい。
又、ターマックモードでは「常にエンジンがかかっている」状態だという。
③筆者の予想では、三菱の次期電動車両は、3モーターで制御する
「スーパーハンドリングマシン」になるという。
三菱のPHEVはジープのノックダウン生産、パジェロ、ランエボと様々な
4輪駆動車の経験から生まれているので、IT企業には到底作れないノウハウが詰まっているとの事。
もしかして、多くの企業が参入してくるBEV(ピュアEV)より、
PHEVの方が三菱が世界市場で生き残っていく活路なのかもしれませんね。

➡︎□一方のピュアEV(BEV)は、ファブレス企業も参入?テスラがファブレス企業にならなかった理由

➡︎□エクリプスクロスPHEVの対アウトランダーPHEVの長所・短所がわかる試乗記

➡︎□エクリプスクロスPHEV対「RAV4PHV」について三菱担当者談

➡︎□エクリプスクロスPHEV対レクサスHVの走りについて
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